キツネ

「お稲荷様」は、古くから穀物や農業の神様とされてきました。

豊作の願いをかけることから、いつしか豊かさの象徴となり、現在では商工業繁盛の神様として一般的に信仰されています。

さて、この「お稲荷様」ですが、多くの人はキツネの姿を連想するのではないでしょうか。

実は、お稲荷様は、キツネそのものではありません。

日本には、神道系と仏教系に分かれた「お稲荷様」がいらっしゃいます。

神道系は、正式には、五穀豊穣の神である宇迦之御魂神(うかのみたま)様のことを示します。

仏教系は、日本土着の信仰と仏教が混ざった、神仏習合思想において生まれたものです。

もとは、仏教の女神である荼枳尼天(だきにてん)が、「お稲荷様」と一つになった姿です。

常にキツネのイメージがついてまわるのは、これらの眷属に関係があるのです。

眷属神としてのキツネ

お稲荷様

稲荷神社の境内を見ると、必ずと言っていいほど、お狐さまが対座しています。

なかばシンボル化しているため、「お稲荷様はキツネである」と思われることが多いようです。

しかし、実際には、「お稲荷様の眷属」となります。

長い年月、修行を積まれた霊狐の、神の使いとしての姿です。

お稲荷様とキツネの深い結び付きに関しては、いくつかの説が存在します。

代表的な説は、宇迦之御魂神の別名である御饌津神(みけつのかみ)に関わる説です。

キツネは、かつて「けつ」という名で呼ばれていました。

「みけつのかみ」に「三狐」の漢字をあてたことから、キツネは眷属として扱われるようになったと言われています。

仏教系ですと、荼枳尼天がまたがる動物が関係しています。

日本に伝来する折に、またがる動物は白狐とされたため、眷属として扱われていると考えられます。

眷属神のエピソード「稲荷流記~小薄と阿古町~」

白狐キツネが、お稲荷様の眷属となった経緯についても、さまざまな説があります。

その中で、空海の弟子である真雅僧正が残したといわれる「稲荷流記」に、興味深いエピソードが記述されています。

全国の稲荷神社の総本山は伏見稲荷大社ですが、その伏見稲荷大社の神体山である稲荷山にまつわるエピソードです。

平安時代、京の船岡山に年老いた白狐の夫婦が住んでいました。

善良な心根の夫婦は、常々「世のため人のために尽くしたい」という願いを持っていましたが、畜生の身では願いを叶えることができませんでした。

そこで夫婦は、五匹の子狐とともに稲荷山を訪れ、祈りを捧げました。

「当社の眷属となり、神威をかりることで願いを果たしたい」

その祈りに、お稲荷様が応え、眷属となることを許したと言われています。

願いどおり、神の使いとして信仰・参詣する人々を助けるよう神託が下り、夫婦は日々精進に努めることになりました。

稲荷山に移り住み、神託に応える夫婦には、男狐が小薄(おすすき)、女狐は阿古町(あこまち)という名が授けられたと伝わっています。

お稲荷様の祀り方

お稲荷様を神棚にお祀りする方法は、他の神様とは少し異なります。

まず、どのような形でお祀りするのか、考えてみましょう。

何を御神体とするかによって、お祀りの仕方は変わります。

基本的には、「御神璽(おみたま)」か「御神札」の二通りの形があります。

御神璽をお祀りする

御神璽御神体として、お稲荷様の御神璽を授かることを「稲荷勧請(いなりかんじょう)」と言います。

御神璽は、金襴がかかった桐の箱に入れられており、専用のお宮に納める必要があります。

伊勢神宮の神宮大麻、氏神様と崇拝する神社の御神札と言った、他の神様の御神札と同じお宮に納めることは避けましょう。

また、お宮のない裸の状態でのお祀りもしてはいけません。

別々の神棚を準備するか、同じ棚にそれぞれのお宮を並べる形をとる必要があります。

御神璽とは別に、お稲荷様の御神札があるときも要注意です。

もとから御神札を授かっていた場合や、後からいただいた場合です。

御神璽と同じお宮に納めることはできないため、別のお宮を準備するか、御神璽のお宮の隣か扉の横などに立てるようにしましょう。

お宮の前には、お稲荷様専用の神具も揃える必要があります。

眷属である神狐の像、榊立て、ロウソク立ては一対ずつ揃えましょう。

この他に、神鏡や鳥居、お稲荷様の紋入りの提灯や幕などがあると良いでしょう。

餅鯛稲荷大明神では正しい稲荷御神璽の祀り方と心得が記されてありました。

稲荷大神の御神璽(御分霊)を授かり、自宅や会社等の守護神としてお祀りすることを、「稲荷勧請」と言います。

御本社から授かる御神璽には、小式から本大斎祀まで九つのお位がありますが、御札と違って御神体ですから、屋内の神棚に設けたお社や屋外の神祠の中に納めて、丁重にお祀りします。

お社や神祠に納めない「裸まつり」はしてはなりません。

また本社から授かった御神璽には、必ず証書(本社から拝載したという証)が添えられていますから、御神璽と一緒に納めます。

お祀りするのは、必ずしも方角にとらわれることなく、屋内・屋外のいずれの場合でも清浄を第一に考え、いつでもお供え物をして拝礼のできる場所を選びます。

また、お社や神祠の高さは、拝礼の時に目の高さより上になるようにします。

お供え物は、毎日家族の朝食前に洗米(又はご飯)・塩・水をお供えし、一日・十五日や祭日には、酒・餅・魚・海菜・野菜・果物・菓子などを適宜お供えします。

季節の初物や珍しい到来物をお供えするのも良いことで、拝礼後にお下げして皆でいただきます。

また、お榊は常に青々としたものにして下さい。

外宮にお祀りする

外宮神棚は、家の中に安置するものなのに対して、外に祀る祠のことを外宮と言います。

お稲荷様の場合は、稲荷宮とも呼ばれます。

外宮を置くには、専用の作法が存在します。

そのたま、設計や施行、神具の準備や御祓の依頼などは、稲荷神社にお任せすることをおすすめします。

勧請を依頼する神社で、相談すると良いでしょう。

御神札をお祀りする

御神札御神体を御神札とする場合には、他の神様の御神札と同じお宮にお祀りしてもかまいません。

一社宮に、御神札の順番を間違えないよう、縦に重ねていきましょう。

三社宮や五社宮で別々の御神座に納めても良いですし、別々のお宮や神棚を準備しても大丈夫です。

専用のお宮や神棚の場合には、鳥居や紋入りの提灯、のぼりなどの神具を飾ります。

また、清浄で目線よりも高い場所であれば、お宮なしでお祀りすることも可能です。

神棚同様、南向きか東向きで安置するよう注意してください。

稲荷祝詞

掛巻も恐き稲荷大神の大前に
恐み恐みも白く
朝に夕に勤み務る家の産業を
緩事無く怠事無く
彌奨め奨め賜ひ
彌助に助賜ひて
家門高く令吹興賜ひ
堅磐に常磐に命長く
子孫の八十連屬に至まで
茂し八桑枝の如く
令立槃賜ひ
家にも身にも枉神の枉事不令有
過犯す事の有むをば
神直日大直日に見直聞直座て
夜の守日の守に守幸へ賜へと
恐み恐みも白す

(読み)
かけまくも、かしこきいなりのおおがみのおおまえに
かしこみ、かしこみ、もまをさく
あしたにゆうべに、いそしみつとむる、いえのなりはいを
ゆるぶことなく、おこたることなく
いやすすめ、すすめたまひ
いやたすけに、たすけたまひて
いえかどたかく、ふきおこさしめたまひ
かきはに、ときはに、いのちながく
うみのこの、やそつづきにいたるまで
いかし、やくはえのごとく
たちさかえしめたまひ
いえにもみにも、まがかみのまがごとあらしめず
あやまちおかすことのあらむをば
かむなおひ、おおなおひに、みなおし、ききなおしまして
よのまもり、ひのまもりに、まもりさきはへたまへと
かしこみかしこみもまおす

稲荷心経

本体眞如住空理
寂静安楽無為者
鏡智慈悲利生故
運動去来名荒神
今此三界皆是我
有其中衆生悉是
吾子是法住法位
世間相常住貪瞋癡之
三毒煩悩皆得解脱
即得解脱
掲諦掲諦
波羅掲諦
波羅僧掲帝
菩提薩婆訶
多呪即説呪曰
オン キリカク ソワカ
オン キリカク ソワカ
オン キリカク ソワカ

(読み)
ほんたいしんにょーじゅうくーりー
じゃくじょーあんらくむいしゃー
きょうちーじーひーりーしょうこー
うんどうこうらいみょうこうじん
こんしーさんがいかいぜーがー
うーごーちゅうしゅうじょうしつぜー
ごーしーぜーほーじゅうほういー
せーけんそんじょうじゅうとんじんちし
さんどくぼんのうかいとくげーだつ
そくとくげーだつ
ぎゃーてーぎゃーてー
はーらぎゃーてー
はらそうぎゃーてー
ぼーぢーそわかー
たーしゅそくせつしゅわつ
オン キリカク ソワカ
オン キリカク ソワカ
オン キリカク ソワカ